鬼の幼馴染は陰陽師!
夜の学校は超危険!
――ねえ、てけてけさんって知ってる?
――知ってる! 電車に轢かれて下半身がどっかいっちゃった女の人の幽霊でしょ?
――そうそう、でね・・・・・・
何であんな話を聞いてしまったのだろうか。
数時間前の自分と、そんな話を持ちかけてきた友人を殴りたくなる衝動に駆られる。
もちろんこの話には続きがある、それは・・・・・・
――この話を聞いた人のところにも現れるらしいよ・・・・・・下半身をよこせ、ってね
最悪だ。
そんなことあるはずがない、そう思いながらもやはり怖いものは怖い。
現在時間は夜の7時、居るのは毎日通っている校舎。
理由は簡単、教室に携帯電話を置き忘れてしまったのだ。
まだ先生がまばらに残っている職員室で鍵を借りたまではよかったが、そこからが問題。
目指す2-Cのクラスは離れの旧校舎にあるのだ。
初々しい一年生と最終学年である三年生が新しいほうを使い、真ん中の二年生は残った旧校舎を充てられた。ただそれだけのこと。
一端新校舎からでて少し離れた旧校舎に向かう。
職員室の明かりが離れていくにつれて不安は増大し、いつも通っているはずの校舎が何か全く知らない場所のように思えてくる。
ちなみに二年生の担当教師は既に帰宅済み。彼らに罪はないが心の中で恨み言を言ってしまう。
「大丈夫、大丈夫だよね・・・・・・」
必死に自分に言い聞かせながら、旧校舎のガラス戸を開く。
普段は開けっ放しのそれはギギっという不気味な音を立てる。
その音に少しびっくりしながらも、恐る恐る中を覗き込みながら「こんばんわー」などといってみる。
もちろん返事は返ってこない、帰ってくればその場で卒倒する自身がある。
校舎内は完全に真っ暗、というわけでもない。ところどころ非常灯や出入り口を示す電灯がついており、その微妙な明るさがさらに恐怖を増大させる。
しん、と静まり返った校舎はまるで異界のようである。
「大丈夫、大丈夫、携帯取りに行くだけだから・・・・・・」
足のないお化けなんて・・・・・・そう思ってしまった。
昼間教室で聞いた怪談を鮮明に思い出してしまう。
「ううう〜なんで思い出しちゃうのよ〜」
その後も彼女はうわごとのように大丈夫、大丈夫と繰り返しながら二回にある目的地へと歩みを進めていく。
その後は何事もなく教室にたどり着き、携帯を回収。
(なんだ、やっぱり何もないじゃん)
彼女はほっと胸をなでおろし、何気なく窓際に目をやる。
そして、見てしまった。
最初、それが何か分からなかった。いや、わかりたくなかった。
それは、一目見ただけならただの女性である。
ぼろぼろの白い布切れに、ぼさぼさの黒い髪。
痩せこけた骨と皮だけの両手、爪はまるで凶器のように長い。
だが、腰から下は何も"ない"
つまり"それ"は、女性の上半身であった。
ずるずる、ずるずる、と"それ"は手の力だけで彼女のほうへ這ってくる。
恐怖で全身が凍りつき、見たくないのに"それ"から目が離せない。
そして、"それ"がゆっくりと顔を上げる。
長い髪で覆われた"それ"の顔はよく見えない。
だが、髪の向こうで真紅が半月状に裂けた。
ーー笑っている
理解した瞬間、彼女は教室から飛び出していた。
なぜ笑っているのか、理解できたから。
廊下を全速力で疾走。後ろは振り返らない。
だがそれでも聞こえる、ざざざざざっ、という何かを引きずるような音。
てけてけ、とかそんな生易しいものではない。
走る、走る、必死で走る。
だが音は消えない、それどころか徐々に、徐々に音は近づいてくる。
そして階段に差し掛かった瞬間
音が消え、背中に衝撃
「足、速いね」
耳元で囁き
「……っ!?」
その声が"それ"のものだと理解したと同時に、体が軽くなる感覚。
彼女は"それ"に突き飛ばされ、宙を舞ったのだ。
「あっ……がはっ!」
背中から地面に落ちる。頭から落ちなかったのは不幸中の幸いか。
だが、衝撃で息が詰まり、目の前がチカチカと点滅する。
その間にも"それ"はゆっくりと彼女へ近づいていく。
ずるずる
ぺたぺた
「ひっ……」
まだまともに動けない彼女を嘲笑うかのように、ゆっくりと"それ"は近づく。
自らの足りない部分を、補う為に。
「足……脚……あし……」
そして、"それ"は彼女の足を掴んだ。
「やっ……め……」
掴まれた足を通して感じる、異常なほどの冷たさが、あきらかにこの世のものではないものを相手にしていると告げる。
「あし……あし……」
「いっ、だ……!」
長すぎる"それ"の爪が足に食い込む。皮膚を破り、肉を刺す。
ーー殺される
「すげぇなおい。まじでAパーツだけかよ」
愉快そうな声が、廊下に響いた。
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